Last update: 05/03/16


私の経験をもとに、学生さんに対してのアドバイスや考えを書きたいと思います。

 大学低学年生へ

 とにかく、悔いのないように遊んで下さい。この時期を逃すと、理科系の人はほとんどゆっくり遊んだり、ものを考えたりする時間がとれません。本を読んだり、いろいろな場所を旅行したり、いろいろなバイトをしたり、いろいろな人と交流したり、自分の視野を広げるいいチャンスです。僕が今まで読んだ本の中でもっとも大切にしている本は、この時代に読んだものです。ただし、きちんと自己管理して留年はしないように。基礎的分野の勉強(数学、物理、化学、生物)や今まであまり勉強していなかった分野を勉強も、おすすめです。また、英語の能力は研究者である以上、必ず必要です。この時期に、海外に留学したり、英語をみっちり勉強してもいいでしょう。

 大学三年生へ

 学生実験や学部の授業で忙しい時期です。遊んでいる暇はほとんどないでしょう。私は実験が大好きでしたので、大変楽しい時期でした。グループで実験をすると実験を行う人と見ているだけの人がいますが、同じ授業料を払っているのですから、積極的に実験しましょう。この時期に習う専門的な内容の授業は、卒業研究に直結する内容もありますし、直結しなくても将来役に立つものも多いので、ただ「単位」のためだけでなく、ぜひとも身につけましょう。(たとえば、分析化学などの内容は、分析化学の研究室に進まなくても、どの分野の研究をする際にも大変役に立ちます。)四年生になると研究室配属があります。三年生の時に、どの先生が人柄的に良さそうか、研究内容がおもしろそうか、将来的に明るそうかを考えて、どの研究室がよいか考えましょう。その際には、直接先生にお話しする際にきちんとチェックするだけでなく、学生実験の時に先輩の話もよく聞きましょう。就職するか大学院に進学するかはバイオ系の学生の場合、研究室配属後すぐに決める必要があります。三年生の内に、どちらかにするかよく考えておきましょう。

 大学四年生へ

 研究室配属となりました。希望の研究室に入れた場合もそうでない場合も、一年間はこの研究室でお世話になります。四年生はとかく遠慮しがちですが、積極的に先生や先輩に話しかけて、出来る限り早く実験方法や解析方法を身につけて下さい。特に実験系の研究室の場合、研究室は一つの共同体です。社会性も要求されます。(当時お世話になった先生に言われましたが、大学の研究室は中小企業のようなものです。教授が社長、助教授が部長、助手が課長、博士課程の学生が係長、修士課程が一般社員、四年生は新入社員でしょうか。)うまく人間関係を作ることで、先輩や先生からうまく情報を引き出すことが出来、研究も早く進むこともあります。大学院に進学する場合にしても就職する場合にしても、それらの準備にかなり時間がとられますし、基礎的な知識やテクニック習得にも多くの時間がかかりますので、研究できる時間は数ヶ月しかないのではないでしょうか。私は、ものを考えたり実験するのが大好きでしたので、あっという間に、一年が過ぎてしまいました。はじめから結果がわかっている学生実験とは異なり、世界で誰もやったことがないことをするわけです。どのような方法でアプローチしようかと考えるだけで、ワクワクしてくるかもしれません。まさに理科系の醍醐味です。どのような結果になるかは、あなたの能力と努力にかかっています。とにかく与えられたテーマに全力投球して下さい。
 大学四年生の卒業時には、与えられた研究テーマに対して、先生や上司ときちんとディスカッション出来るだけの能力や、指示に従ってきちんと研究を進められる能力が要求されます。

 修士課程の学生へ

 修士課程に進んだ学生さんたちには、社会で働かず、あと二年間大学で研究するチャンスが与えられました。大学を卒業して月に15万円の給料をもらえるはずが、逆に授業料を支払って、大学で勉強するわけです。「大学院にいれば就職に有利」だとか「大学院にいればとりあえず働かなくてもいい」などと言う考えでは、もったいないです。理科系の研究室にいて研究する以上、大学や国から多額の補助も出ています。そのような恵まれた環境下にいて、なおかつ自分としてはかなりのお金や時間を投資していると言うことを理解して下さい。理科系では大学院に進学する人がほとんどになりつつありますが、これらを考えて「やはり大学院は意味がない」と思われる人もいるのではないでしょうか。20歳代前半の貴重な時間を、安易な考えで無駄に過ごさないようにしてくださいね。
 修士課程になれば、基礎的な知識やテクニックも十分身に付いているはずです。それらをもとにして、自分に与えられたテーマを進めるためのアプローチの仕方をいろいろ考えて下さい。四年生の相談・指導や研究室内の雰囲気も修士課程がになう大きな仕事です。また、研究結果を社会に広く還元するためや自分を売り込むために、プレゼンテーション能力は重要です。いくら研究内容がよくても、プレゼンテーションが悪く、相手が理解できなければ、その研究内容はないことになってしまうことも多いのではないでしょうか。
 修士課程修了時には、与えられた研究テーマに対して、自分でアプローチの仕方を考え、そのアプローチに基づいて結果を出し、プレゼンテーションする能力が望まれます。

 博士課程の学生へ

 ついに、博士課程まで来てしまいました。他の道も選択できる可能性もありましたが、博士課程に進んで博士号をとってしまえば、道はほとんどの場合、研究者に限られてしまいます。また、周囲もそのように見るでしょう。「博士」という看板をしょってその後の人生を歩むことを決意したわけです。それなりの能力がなければ、かえって反感を買うことになります。また、博士課程終了時に、通常26歳程度になります。四年生で卒業して社会に出ていれば、立派な中堅社員です。その点を十分、理解して下さい。また、海外でポスドクになる人も多いでしょうし、「これからの研究者ポストは常に、海外の研究者と競争しなければならない」、と言う認識を持って自分に厳しく過ごして下さい。とはいえ、ここまで進んだあなたは、とっても研究が好きなはずです。がんばって研究しましょう。この期間には、同じ研究分野の他の研究者や、他の研究分野の研究者と広く交流しましょう。自分の研究を突き詰めることはもちろん、他の研究分野の研究にも積極的に興味を持って、現在の自分の研究テーマに利用することを考えたり、将来の自分のテーマの幅を広げるのに利用しましょう。博士課程の学生さんは、ただの学生さんと言うより、先生の共同研究者と言うぐらいの心づもりを持って、自分の研究の進め方に自由度ももてますし、責任も出てきます。また、後輩の指導も、自分が将来、プロジェクトを率いる際の役に立つはずですから、積極的に行ってほしいと思います。
  博士課程修了時には、与えられたある程度大きなテーマの中で、いくつかのプロジェクトを自分で設定し、ここのプロジェクトの具体的進め方を決定し、結果を出し、プレゼンテーションすることが望まれます。時には、外部の人と共同研究を行ったり、後輩を指導しながら一部の研究を分担してもらう必要もあります。そのため、人間関係を円滑に研究をする能力も望まれます。

以上、いろいろ書いてきましたが、
 大学・大学院時代のさまざまな選択は、その後の人生を大きく左右します。自分で、見て、聞いて、感じて、判断し、実行していく必要があります。もちろん私たち教官も助言をしますが、時代の変化が大変早く、われわれの経験もアテにならない部分も多々あります。その他の人の意見は参考程度に聞いて、自分で判断して、あとはがむしゃらにやるだけです。どんな結果になっても納得いくのではないでしょうか。(少なくとも私はそう思っています。)考えられるだけの知識や、基礎力を低学年時につけられるように努力した方がいいと思います。それから、「楽だから」、「有利だから」などの安易な判断はなるべくしない方がいいと、私は思います。皆さん学生を見ていると、短期的な視野に立ってものを見たり、考えたりする人が多いと思います。短期的には、「楽」なのは重要かもしれませんが、重要なのは、長期的な成功(どのような状況なのが成功なのかは人によります)を得ることのはずですから。

以上思いつくまま書きました。

理科系の大学生、大学院生が望まれる能力については、市川惇信 著「ブレークスルーのために」オーム社出版局 を参考にしました。
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